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食に関わる意識が一変した1冊 水上勉『土を喰う日々』

f:id:hase-base:20220414094725p:plain 今回ご紹介する1冊は水上勉さんの土を喰う日々です。

水上さんは隠侍(いんじ)という師家に直接仕え、日常の世話を長年する仕事を担い、特にお寺で精進料理を作る仕事を長年されてきたそうです。

私は精進料理ついてそこまで詳しくはないのですが、質素で現代の料理に慣れてしまった私には少し物足りなく感じてしまいそうな料理、というイメージが少なからずありました。

しかしこの本を読んで、精進料理にも様々な種類があり肉や魚を食べない料理というだけでなく、一品一品に作り手の優しい心がこもっている料理なんだなと言うことに気付くことが出来ました。

我々は土を食べながら生きている

この本のタイトルにもなっている「土を喰う日々」とは“『旬を喰うこと』とはつまり、『土を喰うこと』”という一文から来ています。

すべての野菜は土から生まれる。

旬を食べると言う事はその野菜を作ってくれた土を食べると言うことを意味する。

当たり前の事ですが、そんな大切なことをこの本のタイトルが思い出させてくれました。

また土に関しての話題と言えば、「すべての土はふるさとにつながっている」と言う一文もあり、この一文もとても好きです。

どの野菜をとっても昔懐かしいあのふるさとにつながっていると水上さんは本の中で述べていました。

食べ物を見ると思い出すのは、懐かしいあの顔

この本は1月から12月まで、それぞれの月の旬の食材を紹介したり、水上さんと食材にまつわる素敵なエピソードを紹介してくれています。

例えば6月。もう少しで暑い夏が来る!という時にスーパーの店頭に並ぶのは青梅ですね。

青梅の漬け方や梅干しの作り方、また水上さんが過去に経験した梅干しにまつわるエピソードなどがこの本には書かれていました。

個人的に面白いなと思ったのは高野豆腐のエピソードで、とある外国人が水上さんのお宅に招かれたときの話です。

水上さんはゲストの方に高野豆腐をお出ししたそうです。

高野豆腐と言えばおいしいダシを吸った豆腐が絶品ですね!私も大好きです。

しかしそのゲストの方は「高野豆腐はただのスポンジみたいなようなもので、スープがおいしい、スープがおいしい」、としきりに言っていたそうです。

それを聞いた水上さんは「これはスープではなく、汁であり、あくまでも高野豆腐のおまけのようなものだ」とゲストに伝えたのですが、ゲストは「これは絶品のスープだ!」と最後まで言っていたようです。

私も高野豆腐のお出汁がすごく好きなのでゲストの方の気持ちを察することが出来、これを読んだときにクスっと笑ってしまいました。

料理とはまた修行なり

この本にはこのようなおいしそうな話だけではなく、時に深く考えさせられるような話も載っていました

米を洗ったり、菜などをととのえたりする時、直接自分の手でやらねばならぬ。その材料を親しく見つめ、細かいところまでゆきとどいた心であつかわれねばならぬ。
料理をたかが台所仕事と見ず、いかに食事を作り、いかに心をつかうか、工夫するか、の行為は、人間の最も尊い仕事だ

今後料理する時に気をつけるよう、心に留めておこうと思います。

他にも、

いくらほめられても、ぼくの方はぜったいといっていいくらいお代わりはしない。うまいものは大事に喰って欲しい。
料理には六味の味があってこそ完全な味だと説いてある。ふつうわれわれは、甘い、塩辛い、酸っぱい、苦い、渋い、の五味を分析して考えているが、もう1つ「後味」を付け足して六味とする。後味とは食べた後、また食べたくなるあと味のことである。

後味に関しての考察はなるほどなぁと頷かされました。

これまでは「おいしかったね」だけで終わっていた食事ですが、「後味」と考えると食事は食べ終わってもなお、続く行為なのだなと思いました。

命を紡いでいく私たち

実家に帰った時に、時折家で作っている野菜をもらって帰ることがあるのですが、スーパーで買うものに比べてボコボコしていたり、味が薄かったり、はたまたすぐに悪くなってしまったり、と「やっぱり家で作るものはあまり品質が良くない。スーパーで売っているのはさすがプロの農家の作品だな」と思っていましたが、この本を読んでその考えを改め直しました。

我々人間も1人として同じ人がいないように、野菜も全く同じ野菜はなくそれぞれ味や特徴、見た目が違うだけだなと言うふうに気付くことが出来たのです。

命を頂いたもの同士、それぞれの個性を認めて付き合いたいと思います。

また、この本を読んでその月々の旬の野菜を美味しく食べたいと言う気持ちになったので、今年は季節と旬の食材を意識しながら生活していこうと思います。