こんにちわ!最近往年の名作を読むのにハマっています。
私の家の近くには蔦屋書店があるのですが、そこで11月に面白い企画をやっていました。
その企画というのが
本の日(11月1日)に向けた全国プロジェクト蔦屋書店の「コンシェルジュ文庫」、始動! ~蔦屋書店の名物コンシェルジュ10人が選ぶ「はじめての1冊」~
というものでした。
全国の蔦屋書店にいるコンシェルジュ120名の中から、名物コンシェルジュ10名が選んだ文庫本を「コンシェルジュ文庫」と名付け、コンシェルジュが選んだ本を店頭に並べるというもの。
第1回目となる今回の「コンシェルジュ文庫」のテーマは「はじめての1冊」。
10人のコンシェルジュが、自分が定めた「●●な、はじめての1冊」というテーマで5タイトルずつ選書し、合計50タイトルを各店舗で展開されました。(一部公式HP引用)
その中で私が気になって手にとった本は北海道TSUTAYA BOOK 企画 森さんのおすすめされていた『中勘助 著、銀の匙』でした。
森さんがつけられたこの本のキャッチコピーは『異なる世界線の<わたし>に会う はじめての1冊』。異なる世界線の<わたし>とは何か気になり、手に取りました。
幼き頃の中勘助の自伝的小説
この本は作者の中勘助さんの実際の幼い頃を回想されながら、叔母さんとの毎日や友達との交流関係を記した小説です。
本のタイトルともなっている『銀の匙』ですが、銀の匙自体が話題に出るのは最初の4ページのみ。
弱くして生まれた中勘助。小さい頃から薬を飲まねばならず、赤ちゃんだった中勘助に薬を飲ませるために使っていた小さな匙がこの本のタイトルとなっています。
この後、この銀の匙について本文中で触れられることはないのですが、著者は大事にとっておいたこの銀の匙を眺めることで彼の幼少時代へとタイムスリップし、思い出に浸れることが出来るのではないかなと考えています。
意味もなく幼いこをからずっと持ち続けているもの、知らずのうちに手元に残っているもの。みなさんにもあるのではないでしょうか?私にはあります。
私の場合は白い犬のぬいぐるみなのですが、それ見るとお互いに長い時間生きてきたね、と戦友の気持ちになるような、それでいて「これが大切だったのか」と自分の成長を感じられるような、一人でぬいぐるみ相手に遊んでいてちょっと寂しかったような、いろいろな気持ちを思い出し思わず手を止めてしまうのです。
叔母さんの愛に溢れた幼少時代
この本の前半部分は著者の幼少時代の話、主に叔母さんと一緒にいろんな世界を見ているシーンが中心になっています。
幼き日の中勘助は伯母によって育てられます。この伯母との毎日が本当にキラキラしていて、子どもの時って毎日が発見で大冒険だったなと自分の幼少時代を少し思い出しました。
伯母さんは幼い著者をおんぶしていろんなところへ連れて行ってくれたり、夜寝る前にはいろいろなお話をしてくれたり、時には遊び相手になってくれたり・・・。
叔母さんの詳しい年齢は書かれていませんが、幼い著者の相手をするのはとても大変だったかと思います。しかし、疲れた顔ひとつ見せずに著者の相手をしている叔母さんは本当に情が厚く、著者は字のごとく愛情たっぷりに育ったんだなと思いました。
幼き頃の著者はいつも叔母さんにおんぶされ、泣きべそをかいています。おばさんはどんな子でもどうしようもなく可愛く、何をしても愛さずにはいられなかったんだなと感じました。
三つ子の魂百まで
対する後半部分は著者の学生時代にシーンが移り変わります。
身体が弱くすぐに熱をあげていた著者ですが次第に身体も丈夫になり、クラスの中でも指折りの存在感を出すまでに成長します。
「ついさっきまでの可愛い子どもはどこに行ったの??」と言いたくなるくらい、しっかりした青年が後半部分では描かれています。
日本軍が勝つとクラス中が言う中で『戦争はきっと負ける』と言い放ったり修身の授業(今でいう道徳の授業)を退屈なものだと言い放ったり、前半部分の著者とは似つかわしくないな、と感じてしまて部分はありましたが、よくよく考えてみると叔母さんの背中で自分の意思を通そうと泣きじゃくったりする頑固な部分はやはり変わっていないなと考えることが出来ました。
「三つ子の魂百まで」とは良く言われたものですが、幼いころの性格は大人になっても変わらないんだなと微笑ましく、幼少時代の著者とを見比べながら読み進めました。
子供らしい驚嘆
この本の中で私が一番心惹かれた一文は
「私は常にかような子供らしい驚嘆をもって自分の周囲を眺めたいと思う。 人びとは多くのことを見馴れるにつけただそれが見馴れたことであるというばかりにそのまま見すごしてしまうのである」
という一文です。
冒頭にも記しましたが、子どものころは毎日が発見で毎日が大冒険でした。
それは毎日が新しい経験でいっぱいだったからだと思います。しかし、大人になったからといって全く同じ日々が繰り返されているわけではありません。
1日たりとも同じ日はなく、日の長さも空気の暖かさも、草花の成長も毎日違っているはずです。
そんな些細な変化に気づき、お互い「生きている」「変化している」ことを感じられたら毎日はもっと彩られるなと感じました。
子供らしい驚嘆、この言葉がこの本のテーマとなり得るのではないかと思っています。
いつになっても子供の驚嘆を忘れずにいたい、と感じた中勘助が子供のころの気持ちに帰り過去を記したのがこの『銀の匙』であると感じました。
私が感じた異なる世界線の<わたし>とは
コンシェル森さんがつけられたこの本のキャッチコピーは『異なる世界線の<わたし>に会う はじめての1冊』。
私が感じた異なる世界線の<わたし>は、幼き日の<わたし>でした。
在り来たりかも知れませんが・・・。
この本を読み、著者の幼少時代に思いを馳せると同時に私の幼かったころの記憶もいろいろ思い出されてきました。
今となってはもう戻れない思い出の過去ですが、あの頃があったからこそ、今の私がいるんだなと感じられることが出来ました。
誰にでも幼き日の楽しかった思い出はきっとあるはず。その大切な思い出の宝箱をそっと開けてみるような、そんな読書体験となりました。