こんにちわ、さっちーです。
私は昔から読書がとても好きでたくさんの本を読んできたのですが、思い返してみれば自己啓発書やビジネス書が多く、「一番心に残った本」や「心を揺さぶられた本」は何かと聞かれるとなかなか即答出来ない自分がいることに気付きました。
そこで、一度ビジネス書から離れて小説の世界へ足を踏み入れることにしました。
とは言っても何から読み始めればいいのかわからず、過去の本屋大賞受賞作品を読むことから始めることに。
今回は初回(2004年)の本屋大賞受賞作品をご紹介致します。
「僕の記憶は80分しかもたない」
このお話は初老を迎えた数学学者とその家に家政婦として通っている女性、家政婦の子ども(博士によってルートという呼び名が付けられた)の交流のお話です。
「博士」と呼ばれている数学学者は、若き日に遭った交通事故がきっかけで記憶が80分しか持たず、80分が過ぎればそれまでの記憶は真っ新に消え去り、また「初めまして」から始めなければなりません。
80分しか持続しない記憶力と、卓越した数学への愛に理解を示せず幾人もの家政婦が博士の元を去っていきました。
ある日ひょんなきっかけから家政婦に子どもがいると知った博士。
「子どもが家に1人でいるなんてとんでもない」と、学校が終わったルートを博士の家に呼んだことから3人の大切な思い出は始まっていきます。
博士の数にかける想い
この本の至る所に「素数」「友愛数」「双子素数」「自然数」「無理数」といった数学の専門用語が出てきます。
学生時代、数学はあまり得意ではなかった私でさえ、この本を読んでいると「数学って神秘的で、果てしない世界を知り得る鍵になるんだな」と思えて来ました。
この本の中で私が一番好きなシーンは
博士の書き記した数式が指先に触れるのを感じた。数式たちが重なり合い、一本の鎖となって足元に長く垂れ下がっていた。私は一段一段、鎖を降りてゆく。風景は消え去り、光は射さず、音さえ届かないが怖くはない。博士の示した道標は、なにものにも侵されない永遠の正しさを兼ね備えていると、よく知っているから。
というシーンです。
この本の語り手の家政婦もまた学生時代に数学を得意とはしていませんでしたが、博士と出会い博士から数学の崇高さを教えられるに連れ、その世界に惹かれていくことになります。
博士は数学の定理を「神の手帳にそっと記されているもの」と語り、とても丁寧に接していました。
物語を読み進めていくに連れ、博士が数学をその世界を愛し、とても大切に、とても丁寧に扱う姿が印象的で数学に対する深い尊敬の念に胸を打たれました。
博士のルートに対する愛情
博士は新しい出来事は80分しか記憶出来ません。彼の頭の中にあるのは、交通事故に会う前1975年より以前の記憶です。
そんな博士ですが、家政婦の子ども(ルート)に対しては「子どもに対して大人はこうあるべきだ」「子どもとはこのようなものだ」と持論を展開し博士が数学と関わる時間よりもルートと関わる時間を優先し、とても大切にしました。
ルートと一緒に学校の宿題を解くシーン、ルートが手を怪我してしまったシーン、ルートと一緒に野球を見にいくシーン、そしてルートの誕生日をお祝いするシーン。
博士のルートに対する愛情はとても深く、お父さんのいないルートにとってはとても楽しく幸せな時間だっただろう、と読んでいてとても暖かい記憶になりました。
博士の愛した数式とは
この物語の中盤にある1本の数式が登場します。
私は読んでいて「ははん、これがタイトルになった〝博士が愛した数式〟だな」と思ったのですが、それに対する答え合わせはありませんでした。
博士が愛したもの、そしてその数式が表しているもの、博士が物語の中に残した暗号は他にいくつかあるのですが最後まで謎は謎のまま。
数学も最終的に導き出される答えは1つですが、その答えにたどり着くにはいろいろなプロセスがあり、博士は博士が考えた問題にルートや家政婦がどんな回答をしても決して否定することはありませんでした。
きっと博士が残した暗号について我々が議論をしても博士はきっとそのどれもを否定することなく、優しく頷いてくれるのではないでしょうか。
博士の優しさが溢れる1冊でした。
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