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振り返った時にはどんな恋でも愛おしい 加藤千恵 著 『こぼれおちて季節は』

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きっと皆誰しもこれまでの人生の中で、 「死ぬ前に人が後悔することリスト」という存在を耳にしたことがあるかと思います。

それでは、そのリストの中の上位に記憶に残る素敵な恋愛をしておけばよかった と、いうことがランクインされていることはご存知でしょうか?

それでは改めて質問です。

あなたはこれまでの人生を振り返った時に、淡くほろ苦く、 そして過去にちょっと思いを馳せてしまうような、そんな恋愛をして来ましたか?

その当時あなたが自分以上に大切にしていた人、その人はいまどこにいて どんな表情をしているのでしょうか?

本日ご紹介する1冊は、自分のこれまで閉じてしまっていた過去の恋愛の箱を ちょっと開けて隙間から覗き込んでいるような、そんなちょっとワクワクし 同時にちょっと切なくなる、そんな1冊です。

どんな本?

フリーペーパーを創刊する大学生サークルに所属する2人の話からスタートする短編小説集。

1つのタイトルに対して2人の目線からそれぞれが主人公となったストーリーが語られている。

また、作品の構成がそれぞれの話が後のストーリーに繋がっていく連作短編集となっており 本が進むにつれて少しずつ登場人物が重なりあっていく。

作者さんはどんな人?

作者の加藤千恵さんは北海道出身の歌人であり小説家。

加藤千恵さんはもともと小説家としてデビューされたのではなく、NHKの短歌番組の常連さんとして活動されていました。

2001年に出版された『ハッピーアイスクリーム』は歌集としては異例の大ヒットとなる。

その後恋愛小説も多数出版されることに。

2009年に出版された『ハニービターハニー』の帯タイトル「ほんとの恋よりドキドキするかも」 を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか?

さっちーがうなった好きな一文

いつもよりもほんの少し、かすれていた 初めて聴く種類の声だった

主人公の愛が思いを寄せている先輩、新ちゃんと初めての夜を過ごす時に 彼が言った一言。

緊張で頭が真っ白になっている時ってどうしてこうも 小さなことまで鮮明にすべて覚えているんだろう。

どうして頭が真っ白な時に限ってちょっと自分の存在が遠く 感じられてしまうんだろう。

きっとそうしないと、心を自分よりちょっと遠くに置かないと ドキドキに負けてしまうんだろうな。

「桃と栗ならもうできてるのにな」

4年も同じ人に片思いしている主人公が「石の上にも3年」と念じ ずっとその時を待っている時に出た一言。

相手の気持ちなんて絶対にわからない。

そのことが時に自分に勇気をくれる時もあるけど、 反対にお先を真っ暗にしてしまう時もある。

「これだけの思いを費やしたのに」 とついつい過去のことわざに嫌味を言ってしまいたくなる時もある。

そんなやっかみ言ったってどうしようもないのにね。 わかってる、全部自分ではわかっているんだよ。

お姉ちゃんが不幸になりそうな道を。 タロットが選んでいると見せかけた、わたしが選んだ道を、そっと示してあげるのだ

同じ血を分けた姉妹なのに、お姉ちゃんと私は全然違う。 お姉ちゃんはいつも「かわいい人気のお姉ちゃん」

そんなお姉ちゃんに私ができることは 占いの力を借りてお姉ちゃんの行動を抑止すること。

間接的なようで直接的なこの手法。

本当のことはわからないからこそできる技。

おわりに

この1冊を読み終わって感じたことは

思い出に残らない恋愛なんてない

ということ。

みんなそれぞれにドラマが隠されている。

その恋が実らなかった原因はタイミングやすれ違い、思い込みなど多岐に渡る。 けれども実らなかったからといって恋愛じゃないわけではない。

みんなそれぞれ自分の中にある愛を守りたいだけだった。

その愛の守り方を弱くて、怖くて知らなかっただけだった。

実らなかったあの小さな思いも立派な大恋愛と言えるのだろう。

そんなことを思いながら自分の過去の淡い思い出を一つ一つ綺麗に磨いて思い出の箱に戻しました。 これまでの自分の恋愛を、ドキドキさせてくれた彼たちの顔をゆっくり思い返す、 そんな優しい時間をくれた1冊でした。

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