今回ご紹介する1冊は寺山修司さんの「書を捨てよ、町へ出よう」です。
この本は以前ご紹介しました梟書文庫の中の1冊です。
この本は何の本かな…とブックカバーを開ける瞬間のドキドキはクセになりますね。
出会いの楽しみ
今回私が偶然にも手に取った本は寺山修司さんの「書を捨てよ、町へ出よう」でした。
梟書茶房の本は全てが覆面で販売されており、本の装丁やあらすじなど一切見る事が出来ません。
今回私の元へやって来たこの本も、普段書店で売られていたら、私はきっと手に取らない本だろうと思います。
これは何も装丁が良くないとか、話がつまらなさそうと言うことではなく、単に私が普段張っているアンテナには周波数が合わず見落としてしまうという意味です。
なのであえて何も見せず直感だけで本を手に取る、というスタイルは新しい本のジャンルや作家さんと出会う、まさに本との出会いの体験を販売しているなぁと感じました。
著者、寺山修司さんについて
今回手に取った本の著者、寺山修司さんについて調べてみました。
寺山 修司は、1935年青森県生まれの日本の歌人、劇作家。 演劇実験室「天井桟敷」主宰。 「言葉の錬金術師」「アングラ演劇四天王のひとり」「昭和の啄木」などの異名をとり、上記の他にもマルチに活動、膨大な量の文芸作品を発表した。 競馬への造詣も深く、競走馬の馬主になるほどであった。 1983年5月4日, 東京都 杉並区にてこの世を去る(Wikipediaより)
寺山修司さんは私が生まれる前にもう既にお亡くなりになっていたようです。
私が生まれる前の日本のアンダーグラウンドな状況がいろいろ描かれていて、とても興味深く楽しく読むことが出来ました。
著者、寺山さんの社会を斜めに捉える視点も、現代ではあまり見られる物ではなく新鮮で言論・思想の自由の主張が感じられました。
今の日本でも言論・思想の自由はありますが、好きなことを発言するというよりは「有益なこと」を言わねばいけないような風潮が強く、また炎上を恐れるあまり感情や思いを内に秘めている人が多いように思います。
異世界との出会い
この本には賭博や競馬、パチンコ、風俗などこれまで私が交わったことのない世界の話がたくさん書かれていて、その異世界をちらっと覗く社会科見学のような気持ちでこの本を読んでいました。
賭博に命をかけ、その日暮らしで生きていく方法、ギャンブルの域を越えて馬の一生に自分を重ね合わせるなど、普段の日常では聞く事の出来ない話ばかり。
著者の寺山さんは男性なので男性目線での世の中の見方、女性の扱い方、お金の使い方、社会への抗い方がたくさん書かれていました。
ぶっきらぼうで、不器用で、強がっていて。
そんなオトコがカッコイイんだ!と言わんばかりに襟を立てていますが、女性からみるとクスッと笑ってしまうような、つい手を掛けたくなるようなそんなイキがっている青年が青々しく描かれていました。
一点豪華主義の薦め
この本の中で寺山さんは繰り返し、「一点豪華主義」について述べていました。
日当たりの悪い四畳半の独身アパートでひっそと美を丸めて生活しているけど、車は外車、などのような一点豪華主義を著者は推奨していました。
一点豪華主義によって可能性を試す、ということになり、いわば「身分相応」という観念への挑戦だそうです。
生活水準を一気に全て引き上げてしまうのは1950年代の日本ではなかなか難しいことだと思いますが、何か1つにこだわって豪華にすることがその時代1番の贅沢であり、1番手っ取り早く夢を叶える方法だったように感じられました。
これを現代の日本に置き換えると、ミニマリストな生活をしつつ、自分の好きなもの、本当に使うものにはこだわる、と言った具合でしょうか。
ここぞ、という時のお金の使い方は今も昔も変わらないなぁと感じました。
建設的自殺について
この本の後半では「自殺の仕方」について詳しく書かれている部分があります。
こういうことを書くとすごく不謹慎ですが、私は昔から「死」についてすごく興味があります。
(あ、何も自殺願望がある、とか死にたい!とか、人を殺してみたい、とかは全くないです!!!)
生きているなら誰しも避けては通れない「死」ですが、その「死」に関しては死んだ人に「死んでみてどう思った?」と聞くことが出来ないですし、日常では目に触れられない場所で全て完結されているからこそ、「死」を前にした人の気持ちやその決意にすごく興味があります。
この本では自殺の仕方、遺書の書き方、自殺の動機の在り方などが詳しく(けど面白く)書かれています。
また、過去の偉人の自殺の状況なども書かれており、とても興味深く思いました。
私たちはどうして生きているのか、人間らしい尊厳ある死とは?、について深く考えさせられました。
昭和中期の日本
この本は1950年代の日本がモデルとなっています。この頃と言えば、戦後の復興を終え、高度経済成長期に差し掛かった頃でしょうか。
どんな夢でも描けましたし、何者にでもなれると夢見ることが出来た時代だったかと思います。
しかしながら、夢を見るのは自由、しかしその夢を叶えられるのは、選ばれしほんのひと握りの人だけ、という事に気付いてしまった青年の叫びだったように思います。
夢見ることは自由だからこそいろんな青写真を描ける、そしてそんな青写真を多くの人に見せるのが著者の役目であったと感じます。
この本には詩人でもある著者の詩もたくさん掲載されています。
今の日本ではなかなか表現されないような表現もあり、楽しく読むことが出来ました。
今の現代にこういう友達がいたら楽しいな、と思いながら読んでいましたが、書を通して意見交換しているならば、書を通して新しい友人が出来たと言うことが出来ると思えるような体験をしました。
そんな1冊でした。